
仮想通貨におけるステーブルコイン(Stable Coin)とは?
仮想通貨の1つにステーブルコインがあります。ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)、リップル(XRP)といった通貨とは違ったいきさつで誕生しました。ステーブルコインとはどのような通貨なのでしょう?具体的にみていきます。
ステーブルコイン(Stable Coin)って?
「価格が安定した通貨」のことです。ブロックチェーン技術の透明性を持ちつつ、ドルや円などの法定通貨の価値と連動するように設計されています。仮想通市場は、まだボラッティリティ(価格変動)が著しいので、それだけでは国同士の送金や取引の際にリスクが生じる可能性が高いです。それを回避するシステムとして導入されたコインです。
ステーブルコインの特徴
- 価格変動が少ない
- なんらかの資産にバックアップされた通貨
- 仮想通貨市場の「避難通貨」としての役割
- 銀行間のやりとりが必要ない
- 仮想通貨市場全体の2.7%(市場規模は3,000億円/2019年2月)
別名「ペッグ通貨」
上記でも述べましたように、ステーブルは「安定」の意味をもちますが、ステーブルコインはまたを「ペッグ通貨」と呼ばれます。ペッグとは「固定する」という意味です※1。既存の為替市場においても、為替のボラッティリティのリスクを避けるために、「ドルペッグ制」という制度を採用しており、「特定の通貨と価格が連動するように設定された通貨」として、国の通貨と米ドルとの為替ルートを一定の割合に保っています。ステーブルコインはその制度を仮想通貨に取り入れたシステムです。「安定(ステーブル)=固定する(ペッグ)」……似ていますね。
※1辞書上の意味は「固定する」ですが、ステーブルコインとの関連ですと「ペッグ=連動する」と捉えた方がわかりやすいでしょう。
ステーブルコインのタイプ
ステーブルコインは大きく以下のタイプに分けられます。
「法定通貨担保型」
米ドルや日本円など、「法定通貨」を担保としたコインです。ステーブルコインの中で最も多いのがこのタイプで、ペッグするする通貨発行国の経済や政治の情勢、金融市場の動きによって価格が動きます。また、コインだけでなく、価値を保証された資産も担保にできます。この資産を担保にしたコインを「コモディティ連動型」といいます。コモディティ(商品)の価格にペッグします。金や貴金属、原油などのエネルギーなどです。有名なこのタイプのコインは、ベネズエラのPetro(ペトロ)です。自国の原油を担保にして政府が発行しました。ですが現在は購入することができません。その他に金を担保にしたDigixDAO(DGX)があります。
「法定通貨担保型」は、中央集権的な管理者(国や銀行などの組織)がバックアップしています。非中央集権を理想する仮想通貨とは違った趣もあることは確かです。
「仮想通貨担保型」
法定通貨ではない、ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)などの仮想通貨を担保としたコインのことです。法定通貨の中央集権的な要素を排除しているため、仮想通貨の理想とする非中央集権的な要素を持ち、またブロックチェーン技術による透明性のある状況でコインを維持することができます。ですがやはり担保とするコインが仮想通貨なので、価格変動の影響を避けることはできず、200%などの過剰な量の預金を必要とします。
「無担保型」
法定通貨や仮想通貨などの既存の通貨を担保としないステーブルコインのことです。スマートコントラクト(自動化された契約)に準備銀行のような機能を持たせて、法定通貨の価値にできる限り近づくように調整しながら価格を安定させています。このコインはアルゴリズムによってコントロールされているので、コインが人気になり、価格が高騰している間は新トークンを発行して安定性を図ります。価格が下がっている間は流通している通貨の発行量を抑えて価格を底上げします。スタート時は1コイン=1米ドルということで始まりますが、必ず1米ドルに近いコインとして連動するというものではありません。コイン自体がそのものの価値を持ち、安定して維持されることを目指している独立派コインとも言えます。
ステーブルコインの銘柄
代表的なテーブルコインです。
テザー(Tether/USDT)
最も有名な「法定通貨担保型」ステーブルコインです。アメリカのテザー社が2014年に発行しました。Tetherは、ステーブルコイン市場全体の約90%の取引を取り仕切っていますが、2018年2月、発行元のテザー社が準備金として必要な米ドルを保有していないのではないかという疑惑が浮上しました。そして、2019年4月に「全て保有しているわけではない」という見解を発表しました。詳しくは「テザー疑惑」の項目で見ていきます。
USD Coin(USDC)
Tetherの次に時価総額が高いステーブルコインです。アメリカの企業、Circle社が発行しています。こちらも米ドルが裏付けされた「法定通貨担保型」です。発行元のCircle社は大手金融機関のゴールドマンサックスから出資を受け、2018年2月には仮想通貨取引所のポロニエックス(Poloniex)を買収しています。また、USD Coinは第三者機関の監査の下で発行した報告書で、仮想通貨の発行数を上回る米ドルがあると証明されていて、そういった点から、信頼性の高いステールブコインであるといえます。ビットコインやイーサリアムなどの売買に多く用いられています。
trueUSD
Trust Token社が発行するドルと連動しているステーブルコインです。ユーザーが信託会社の口座にドルを送金すると、スマートコントラクトによって自動TUSDがはっこうされる仕組みになっています。信託会社が間に存在しているので信頼性が高いです。
メイカー・ダオ(MakerDAO/DAI)
米ドル:DAI=1:1の連動した価値を持つ「仮想通貨担保型」のステーブルコインです。担保となる仮想通貨はイーサリアムで、ERC-20を基盤としています。発行するDAIの150%以上のイーサリアムが保有されるようにスマートコントラクトで調整されています。
CARBON
アルゴリズムによって通貨の供給量をコントロールする「無担保型」のステーブルコインです。第三者の介入がいりません。このコインは、発行元の準備金のコインの保有量に左右されない点があります。また、CARBONはイーサリアムだけでなく、イオス(EOS)のブロックチェーン上でも活用されています。
2014年にテザーが発行されてから、その数は増加し続けています。2019年に、フェイスブックが独自のステーブルコイン、Libra(リブラ)を発行することを発表し、2月には50種類を超えるステーブルコインが登場しています。すごい数ですね!
ステーブルコインのメリット
- 仮想通貨市場が下落した際の「駆け込み通貨」として利用できる
いつ下落するかわからないというリスクが伴う仮想通貨市場において、ステーブルコインを保有していれば、仮想通貨の価格が下落した際の駆け込み通貨として利用することができます。価格が落ち着いたところで再び仮想通貨を購入すれば利幅を大きくすることもできます。 - 送金手数料の負担が軽減され、決済時間の縮小が可能になる
将来、市場に出回り、日常生活までステーブルコインが浸透するようになれば、国間の送料が安価になり、決済時間も短く済みます。現金やクレジットカード、デビットカードより安く、早く、安全な決済が可能になるのです。また、国際送金の支払いを銀行を介することもなく、口座の開設も必要がありません。 - 投資家や一般ユーザーへの強いアピールになる
法定通貨を担保としているステーブルコインは、価格にある一定の安定性が見られます。価格が安定すると、投資や預金をする機会が増えてきます。
ステーブルコインのデメリット
- 中央集権的なシステムの存在
安定した通貨を提供しているということは、中央に管理者が存在し、運営や発行をしていることになります。かりに発行元が不正をしたとすれば、保有しているコインの信頼性がなくなってしまうこともあります。その時には通貨の価値はゼロになる可能性がおおいにあります。 - 法定通貨の保持の有無
「仮想通貨担保型」のステーブルコインは、コインの発行量と同じ量の法定通貨を保有していなければなりません。かりに保有している資金のうち、ステーブルコインの方が量を上回っていたとなれば、法定通貨に「裏付けされている」といった保証がないものとされてしまいます。信頼の欠如です。
その「保有」に信憑性が疑われたステーブルコインがあります。テザー社のUSDTです。
テザー疑惑
ステーブルコインの中で最も有名なのが、テザーですが、2018年2月、準備金として発行しているUSDTと同等の米ドル(USD)が保有されていないのではないかという疑惑が浮上しました。かりにテザー社がUSDTと同額の米ドルを保有していないと、テザー社は無限にお金を発行できるということになります。ビットコインの価格下落に合わせたタイミングで通貨を新規発行し、できる限りビットコインを買うことができるのではないかと指摘されました。
テザー社あてに、ツイッターや掲示板、ビットカンファレンスから米ドルの準備金を証明するようにとの声があがっていました。が、当時のテザー社はその要求に応じず、監査法人との関係も打ち切ったことを公式に認めたのです。
そして2019年4月30日、テザーの弁護士は、USDTの4分の3の米ドルしか裏付けられていないことを発表しました。担当弁護士のズー・フィリップ氏は実際に米ドルで裏付けられているのは、全体の74%だとしたのです。ですが、フィリップ氏は「どこの商業銀行も、預金額に占める一部の割合しか通貨を保有しておらず『部分準備銀行制度』のようなもの」と問題を重要視しませんでした。
繰り返しますが、ステーブルコインは、発行元がステーブルコイン(ここではUSDT)と同額の法定通貨(ここでは米ドル)を保有していることが条件です。その保有率1:1がステーブルコインの価値を維持しています。今回の出来事は、テザー社がUSDTを立ち上げた当初から公言しているものとは大きく異なっていると言わずにいられません。
また、この発表の数日前の4月25日、ニューヨーク州の司法長官が、テザー社と仮想通貨取引所のビットフィネックス(Bitfinex)を追訴しました。提携先のクリプト・キャピタル社の損失、8億5100万ドル(約953億円)を補填するために、7億ドル(約777億円)ほどのテザーを不正利用し隠蔽したとみなされたのです。ちなみに、テザー社と仮想通貨取引所のビットフィネックスは親会社が同じで、テザー社の設立には、ビットフィネックスの経営者が協力したと言われています。
こういったテザーにまつわるさまざまなトラブルは、ステーブルコインの存在をゆるがす大きな事件といえます。
ステーブルコイン新情情報
- 2019年7月15日、テザーは誤って50億USDT(約50億ドル)を発行し、すぐにバーンしたことを発表しました。ブロックチェーンの基盤であるオムニからトロン基盤に5000万USDTを送信しようとしたところ、少数を間違えた人的ミスが原因とされています。
- 2019年7月17日、世界有数の暗号資産投資プラットフォームであるHuobiは、仮想通貨スタートアップのStable Universalと「HUSD Token」と呼ばれる米ドル建ての新しいスーテブルコインを発表しました。基準はイーサリアムのERC-20トークンです。仮想通貨カストディを手がけるブロックチェーン企業のパクソス(Paxos)が後ろ盾になって米ドルを管理しています。
まとめ
仮想通貨の価格の安定を促してくれるステーブルコインは、そのボラッティリティの低さや、便利で安価な国際送金システム、そしていざという時の「仮想通貨の価値の保存」を提供する未来の通貨と言えます。が、その一方で、中央集権的な面が多くを占めていて、テザー問題で見られるような価格操作の問題もあります。法定通貨の価値と連動(ペッグ)していることを基本とするステーブルコインは、「信頼のおける確実な存在=法定通貨とステーブルコインをバランするよく保有している発行元の存在」が重要なのです。