
ハードフォークはなぜ起こるのか?
ビットコイン(BTC)、イーサリアム(ETH)とこれまで数回のハードフォークが実行されてきました。フォークするたびに新しいブロックチェーンが繋がり、新しい仮想通貨が生まれます。背景にはどのような事情があるのでしょうか? 実例を取り上げてみていきます。
ハードフォークとは?
ブロックチェーンの仕様変更や技術改善ために行う『互換性のないアップデート』のことです。このアップデートで、ブロックチェーンは旧ルールのままのブロックと、新しいルールを採用したブロックに枝分かれ(フォーク)します。この枝分かれを『分岐する/派生する』と言います。
新しいルールができたからといって旧ルールのブロックがそこで途切れるわけではありません。旧ルールのブロックもそのままチェーンを繋いでいきます。
新ルール、あるいは旧ルールのブロックチェーンのどちらが長く伸びていくかは、各々を支援するコミュニティーの「ハードフォークを何のために実行するか?」といった明確な理念によると思われます。この辺りは「ビットコインABCとビットコインSV(サトシビジョン)の誕生」の項目で説明したいと思います。
ソフトフォーク
ちなみに、ブロックチェーンの仕様変更をするもう1つの方法として「ソフトフォーク」があります。こちらは互換性のあるアップデートです。旧ルールを用いたブロックの後に新ルールをそのまま繋げることができます。
ルールが変わっても、分裂することなくブロックは生成されていきます。
もうすでに何度も耳にしていることと思いますが、ブロックチェーンの1ブロックは容量に上限があり、容量以上の情報を入れるためには、ブロックサイズを大きくしなければなりません。このブロックサイズ拡大対策として、Segwit(セグウィット)があります。取引データを圧縮することによってブロックに隙間をつくり、ブロック内の取引データの量を増やす方法です。
ですが、Segwitはあくまでも、ソフトフォークの1つであり、ブロックに隙間を作るだけなので、ブロックのサイズは変わりません。最大でも1.7MBしか増加できないのです。これでは将来、仮想通貨のユーザーが増加していくにつれ、スケーラビリティ問題が再び生じてしまいます(Segwit2xは2MB)。
このような問題を解決するのがハードフォークです。
ハードフォークをする理由
- スケーラビリティ問題の解決のため
上記でも述べましたように、仮想通貨は取引量が増加する(ユーザーが増える)と、トランザクションの承認が間に合わず、取引の送金スピードが遅れ、手数料が高くなる問題が生じます。 - ハッキング対策のため
プログラムにあるバグ(欠陥)を悪用したハッキング対策です。言い換えると、ハッキングによって盗まれてしまった仮想通貨を無効にする方法です。実際に起こった事件に「The Dao事件」があります。次のハードフォーク実例で説明します。
ハードフォーク実例
イーサリアムクラッシック(ETC)…2016年6月17日
引用元:COINZ
2016年6月17日、当時あった150億円のうち、約65億円のイーサリアムがハッキングされてしまいました。原因は採用していた 「The Dao(ザ・ダオ)」というシステムにある脆弱性でした。
「The Dao(ザ・ダオ)」とは?Split機能と送金バグとは?
「The Dao(ザ・ダオ)」 とは管理者のいない自立分散型投資ファンドを行うサービスです。投資先は出資した参加者の投票によって決まるシステムを採用しています。ですが、この投資先の決定に参加者が同意できないケースが生じます。その参加できない場合に利用するのが「Split機能」です。
そして同意できなかった人は、出資した資金をDao(トークン)から切り離して新しいDaoを作成し、管理する事ができます。この機能が使えるのは、1度だけになっているはずなのですが、複数利用できてします欠陥がありました。これが「送金バグ」です。
「The Dao(ザ・ダオ)」事件
ハッカーたちはこの欠陥を利用してイーサリアムを盗みました。つまり、「Split機能で新しいDaoを作成し、それに報酬を送金する指令を送り、バグ操作により何度も送金を繰り返した」のです。
ですが、Daoには「送金した資金は27日間経過しなければ使用できない」という規約があったため、この期間内にイーサリアムはハードフォークを実行し、ブロックチェーンがハッキングされる前の状態に戻しました。ハッキングを「なかったこと」にしたのです。
この解決策(ハードフォーク)には賛否両論がでました。管理者がイーサリアムの送金自体を「なかったことにする」という行為(ハードフォーク)は、本来の理念である「分散型組織」のあり方に準ずるものではないのではないか?と異議を唱えた人たちが出てきたのです。
そして、
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- ハードフォーク賛成派は…イーサリアムを支持
- ハードフォーク反対派は…イーサリアムクラッシックを誕生(※クラッシックは「古典的」「伝統的」という意味で「イーサリアムの根本理念にかえる」という意味合いがあるのでしょう)
という結果になりました。
ビットコインキャッシュ(BCH)…2017年8月1日(1回目)
ビットコインのスケーラビリティ問題解決のために誕生しました。当初はこの解決案として2つあげあられました。
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- ①セグウィット…取引データを圧縮して空き容量を増やす方法
- ②ビッグブロック…ブロックを大きくすることでブロックの空き容量を増やす方法
①セグウィットはビットコインの開発者たちに、②ビッグブロックはビットコインのマイナーたちに支持されました。
最終的に①セグウィットが選ばれました。しかし、これに反発した人たちが現れました。その人たちがハードフォークを実行し、ビットコインキャッシュが誕生します。
ビットコインキャッシュ(BCH)…2018年5月16日(2回目)
1回目から約10ヶ月後、2回目のハードフォークが実行され、以下の2点が実装されました。
- ブロックサイズが8MBから32MBに拡張
- スマートコントラクト
サイズが拡大されたことで、ビットコインより送金時間をより短く、手数料も安価で済むようになりました。
そして、2018年の11月、大きな話題になったハードフォークがありました。 ビットコインキャッシュから分岐したビットコインABCとビットコインSV(サトシビジョン)です。
ビットコインキャッシュ(BCH)…2018年11月16日(3回目)
ビットコインABCとビットコインSVはなぜ分裂したのか?
ビットコインキャッシュ3回目のハードフォークです。ハードフォーク前後は多少こそ通貨の値動きはあるものの、従来通りのアップデートのはずでした。ですが、結果的に仮想通貨市場の大規模な暴落のきっかけとなってしまいました。
先にアップデードを発表したのは、ビットコインABC側です。
その内容は…
- オラクル(Oracle)※1を活用したスマートコントラクトの実装
- クロスチェーン※2の実装
です。外部情報の取り込みやブロックチェーン上のトークンを安く交換することを目指したビットコインABC側の取り組みでした。
※1 ブロックチェーンと世の中の情報をつなぐシステムのこと。最近では仮想通貨以外でも活用法が考慮されている。
※2 異なるブロックチェーン同士が交わることをいう。言い換えれば、取引所の仲介なしに異なる通貨同士を直接交換する事ができます。
ビットコインABC
引用元:Bitcoin ABC
Bitcoin.comのCEOであるロジャー・バー(Roger Ver)氏やBitmainの創始者ジハン・ウー(Jihan Wu)氏が支持する仮想通貨です。既存のビットコインキャッシュのBCHプロトコルのフルノード※3実装版と言われています。アトミックスワップなど大幅なアップグレードが導入されています。
※3 トランザクションのデータを全て持っているノードのこと。承認作業の他に報酬を受け取る事ができるマイナーに対し、フルノードは承認作業のみで報酬を受け取るこはできない
ビットコインABCを支持する人物 ロジャー・バー(Roger Ver)氏
仮想通貨黎明期から仮想通貨に大きな期待を持ち、投資をしていた通称「ビットコインの神」です。5人しかいないビットコイン財団の創始者の一人です。
引用元:BITSONLINE
しかし、それに待ったをかけたグループがいました。クレイグ・スティーブン・ライト(Craig Wright)氏が率いるBSV開発チームです。
ビットコインSV(サトシ・ビジョン)
引用元:たのしい仮想通貨女子会
クレイグ・スティーブン・ライト氏やCoingeekが支持する仮想通貨です。ビットコインの誕生から10年目となる年に、ビットコインSVが発表されました。これは「『サトシ・ナカモト』を象徴する仮想通貨」を強調しています。つまり、ビットコインSVが本来目指していたビジョンに立ち戻ることを目的に作られた通貨であると言われています。
その内容は…
- ブロック容量を32MBから128MBへ拡張
- 以前削除されたビットコインのコードの復元
です。ビットコインのスケーラビリティ問題を解決し、本来のビットコインのあり方を取り戻すことを目指しています。
ビットコインSVを支持する人物 クレイグ・スティーブン・ライト(Craig Wright)氏
引用元:株初心者の資産運用日記
nChain(ビットコインキャッシュのコミュニティ有力企業)の科学者です。ライト氏は「サトシ・ナカモトである」と自ら名乗り、物議をかもした過去があります。ビットコインSVを強く支持し、ハードフォーク後も敵対するABC側に攻撃的な発言を繰り返していました。
つまり、仮想通貨に対する「理念の違い」がハードフォーク騒動を起こしたと言えます。
ハードフォーク前後の経緯
分裂する前の評判では、ビットコインABCの方が優勢で、ハッシュ戦争(採掘戦争)に勝つとみなされていました。また、ハードフォーク直後も、市場価格とマイニング量でビットコインABCは取引所からも信頼あるコインとして見られていました。しかし11月下旬にはビットコインSVの方が価格が上昇し始め、前日比で50%を超えて価格が上昇します。
しばらく両通貨の拮抗関係が続きましたが、最終的にビットコインABCがビットコインキャッシュの名前を引き継ぎ(ティッカーシンボル)、ビットコインSVは、付与通貨として別々のプロジェクトを歩むことになりました。
現在のビットコインABCとビットコインSV
2019年4月に入り、ビットコインSVの取扱いを禁止している取引所が出てきました。SBIバーチャルカーレンシー、中国の取引所のバイナンス、国内のBITPoint、そして米国のKrakenなどです。
その一方で、ビットコインABCは2019年5月15日に、親コインであるビットコインキャッシュの新たなハードフォークを予定しています。アップデートの内容は「ネットワークのスケーラビリティ向上」です。スケーラビリティ問題はブロックチェーン技術における大きな課題なのかもしれませんね。
また、その他に、ビットコインから分岐して誕生した仮想通貨はビットコインゴールドやビットコインダイヤモンドなど、他にたくさんありますが、ここでは割愛させていただきます。
ハードフォークのメリットとデメリット
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- メリット
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ブロックチェーンが抱える問題を解決できる可能性がある
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- 仕様を改善することで、スケーラビリティ問題などの課題を解決できるようになります。
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分岐した仮想通貨の価値が上がる可能性が高い
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- 技術改善がなされれば、それは良いコインであるとみなされ、需要が高まります。それに伴い価値も上昇することが予想されます。
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- ・分岐する前のコインを保有していた場合、新コインが無償でされる可能性がある
デメリット
・ハッシュパワーの分散
ハッシュパワーとはマイニングの計算処理能力のことです。マイニングはたくさんのハイスペックなコンピューターを投入しないと成功できません。ですが、ハードフォークすればそのマイニングの計算力も分散されてしまい、ブロックチェーン上でのトランザクション(取引処理)も低下してしまいます。
・仮想通貨への不信感
事が起きるたびに、ハードフォークをすると、「いつでも変更が可能」という考えが出てしまいます。「データー改ざんは不可能」を基本ルールとしているブロックチェーン技術なのに、「システムの仕様変更あり」となれば、そのやり方に疑念が出て来る可能性がないとも限りません。
ハードフォークによる取引市場の動き
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対象通貨の価格変動の可能性がある
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- ハードフォーク前後では、新旧通貨の動向がメディアで話題になり、さまざまな思惑が浮上します。その結果、通貨の価格が変動する可能性が起きるのです。
・取引所が対象通貨の取引を一時的に停止
ハードフォーク前後は、対象通貨の安全性や流動性が懸念されます。トランザクションが無事になされ、ブロックチェーンが繋がっていくか……などしっかりと把握するために、一時的に取引を停止する期間が必要なのです。
まとめ
引用元0:PAKUTASO
ハードフォークは実行されるたびに、仮想通貨市場が荒れ、価格が変動します。が、ブロックチェーン技術をさらによいものにするためのアップデートでもあります。未来における重要なテクノロジーであるブロックチェーンを底上げしてくれるハードフォークの動向からも目が離せません。